「完璧主義」12

ゆきぴです。

最近更新が途切れ途切れになってすいません。

 

 

『若松と話してから、私はここから出るにはどうすれば良いか考えていた。

ベッドの上で考えていても良いことが思いつくわけでもない。しかし、考えることによって自分の精神的衛生面を配慮した。

なぜ私は病気になったのだろう。具体的な原因は何なのか、医者は教えてくれない。

統合失調症。そんな診断を下されても、余命を宣告されたわけではない。

私は生きている。

だが実感がない。みんなそうだろう。

何をもって人は病気だと言えるのだろうか?

何をもって人は正常だと言えるのだろうか?

運が悪かっただけなのだろうか。

運? そうか、運か。だから私は無意識のうちに若松に賭けと称して誤謬だらけのことを言ったのだろう。何でも賭けと称すれば誤謬がまかり通ることを私は知っている。

私は実際ここから出たいのだ。なのに実力がどうのと私は意地を張り、プライドだけでここから出ようとしている。

運だってこの病気だって実際に目に見えるわけではない。

だったら割り切って自分は病気ではないと言ってしまえばいい。

ここから出られるのが運だろうが実力だろうが、麻雀に勝てるのが運だろうが実力だろうが、所詮そんなものは結果しか目に見えず、ほかのことは誰も気にしない。

つまり、病気になった原因もどうでもよく、ここから出る努力もどうでもよいのだ。

私はなんだか虚しくなった。

目に見える結果しか気にしないなんて、悲しくはないだろうか。

「どうしたんですか?」ふと私の担当の看護師が顔をのぞきに来た。

看護師に私の心境を一からしゃべるのは、途方もない苦労のように感じた。

「何でもないです」私は言った。

「そうですか。いつでも相談に乗りますからね」男の看護師はそう言って去って行った。

私は坂本と話したくなった。

きっと今頃はテレビを見ているだろうか。

 

テレビの画面で、大きな蛇が何か小さな鳥を丸のみしているのが見えた。

「気持ち悪いなぁ」坂本は言った。

気持ち悪いのが好きなのだろうか。だから見ているのだろう。人は得てして気持ちの悪いものに見入ってしまうことがある。

「坂本さん。話があります」

「おお。なんだ?」

「ここは地理的には駅北口から見て真正面の方角に位置するところだと思いますが、社会的にはどこですか?」私は若松の言葉を思い出して言った。

「・・・そうだな。社会的に言うとここはペーパーカンパニーだろう。ついでに物語的に言うとクジラの胃の中だろう」と言った。

「どういう意味ですか?」

「そのまんまだぜ。ここは実体のない会社」

「それはなんとなくわかるんですが、クジラの胃の中っていうのは?」

「物語的に言えばピノキオだ。俺は思うんだがよ。あの物語は全部クジラの胃の中の出来事なんじゃねぇか。だってよ、クジラってでっけぇだろ。ピノキオはちっちぇだろ。物事は目に見えないものでいつの間にか覆われてるってこともあるんだぜ」

「その発想はなかったです」

「なあ、あんた。ここから出たいんだったら、クジラのことはどうでもいいんだよ。クジラの外の世界のことだけを考えるんだよ。そうすれば自ずと答えは見つかる」

クジラの外か。そう言われると、私は今までそのことにあまり関心がなかった。

「ありがとうございます」私は坂本に礼を言った。

 

「もしもし。新沼です」弟が抑揚のない声で言った。多分もう私だと気づいているのだろう。私は昼時を狙って弟にまた電話をかけた。

「兄だ。何度も悪い」

「別にいいけど。そういえばさっき言い忘れてたけど、兄貴、高校の同窓会出るのか? 返事がないから兄貴の同級生から俺の方に連絡来たけど・・・」

「ああ、悪いけど、今は行けないって返事しておいてくれないか」

「わかった。—で、用件は何?」

「私はここから出たら、自分の本当にやりたいことをやろうと思ってな」

「兄貴の本当にやりたいことってなんだよ」

「物書きだ。忘れたのか? 昔からお前に軽い読み物を書いてやっただろ」

弟の笑い声が聞こえた。

「頑張れ。俺も今の兄貴の書いた小説なら読んでみたい気がする」

「そうか。ありがとな。—じゃあな」電話を切った。

私は自分の病室へ戻り、ベッドの上で妄想を開始した。物書きにとって想像力や妄想する力は大事だ。不健康にならない程度にバランスよく妄想する力も大事だ。

紙と鉛筆さえあれば、執筆活動はできる。

私は真っ白な紙に、「完璧主義」とタイトルを書いた。』

 

 

続きは次回更新にて!