「完璧主義」17

 

ゆきぴです! 更新がだいぶ遅れてしまい、申し訳ありません。

 

では、続きをどうぞ!

 

 

『イルミネーションの光をあちらこちらで目にするが、私には目がちかちかするだけで、何の高揚感も感じない。

今日はクリスマスだというのに、ここでは祝福や福音めいたものは何もない。

が、シャバにいたからといって、毎年何かめでたいことがあるわけでもないのだ。

「おい、小説の続きはどうした?」私の担当編集者にでもなったつもりなのだろうか。それとも単に小説の続きが気になるだけだろうか。若松は私を急かした。

病室の月めくりカレンダーに、誰がつけたかわからない25日の赤ペンの丸が目立った。この丸を付けたやつはきっと、イエスがどれだけすごいことをした偉人か知っているのだろう。

「世界で一番読まれている本は何か知っているか?」私は言った。

「聖書だろ?」若松は自慢げに言った。あ、そういや今日クリスマスだな、と若松は呟いた。

「その通りだ。だからお前も聖書を読め」私はメモに、聖書とは程遠い妄想譚を書きなぐっていた。

「なんだその理屈。イエスが喜んでも、俺が発狂しちまう」

「もし、世界で一番読まれている本が聖書じゃなくて、私の書いた小説だったとしても、お前は発狂するか?」

若松は神妙な顔つきになった。

「さあな。俺だけじゃなくみんな発狂するかもな」

私は思わず声に出して笑ってしまった。「だったら、お前は私の小説の続きなんかより、聖書をありがたく読んでいた方が有意義だろ」

「あんたはそれでいいのかよ」

今の若松とのやり取りで私は察していた。私には世の中の理屈は通用しないのだ。

例え世の中の人の大半が、狂気的なものをありがたく読んで正気を保っていようが、私は狂気的な思想を持って正気を保っている方が人生をまともにやる過ごせるのである。

小説家になろうとする人なんて、大体みんなそんな考えだろ」

「つまんないねー」若松は言った。

”つまんないねー”の言葉の意味には、「お前はつまらない人間だ」という意味にもとらえられるが、「こういうつまらない人間がいる世界がつまらない」という意味にもとらえられる。

若松は言葉に深みを持たせない人間なので、無意識に相手を傷つけてしまうことがあるということを自覚しなければならない。

「ところでお前の彼女さんはクリスマスに会ってくれないのか?」私はずけずけと聞いてみた。

「ああ、雀荘でクリスマスのイベントがあるから忙しいんだとよ」

雀荘ねえ。—なあ、雀荘って儲かるのか?」

「そりゃあ、雀荘だけじゃなくどこの店も客商売なんだから。客が入れば儲かるだろ」

「まあ、そういうもんか」私はそっけなく言った。

 

「おい、そういえば竹林はどうした?」若松が喫煙所から病室に帰ってきて、思い出したようにふと言った。午後のおやつタイムの時間であった。

すると、ちょうどひょっこりと竹林が病室に帰ってきた。

「おい、どこ行ってたんだ」若松は聞いた。

「外出だよ。ほら今日クリスマスだろ? ケーキ買ってきた」竹林は、買ってきたイチゴのショートケーキを見せびらかした。

「めでたいやつだな。俺にもよこせ」

「駄目だよ。そういうやり取りは禁止されてるだろ。それに俺の分しか買ってきてない」

「馬鹿言うな。じゃあせめてイチゴくらい良いだろ」若松は図々しくケーキの一部分でもせしめようとしている。

「『せめて』の意味わかってるか? 妥協するのに、なんでメインのイチゴを持ってこうとするんだよ」

竹林も負けじと、買ってきたケーキをすぐむしゃぶりつこうとした。

すると竹林の持っているケーキを、若松は両手で勢いよく竹林の顔に押し当てた。

そこへ看護師がやってきて、「若松さん。お話がありますので—」と言って竹林の方を見ると、生クリームだらけの顔になっていた。

「あら、竹林さん。おいしそうにケーキを食べますね」と看護師は言った。

若松は大笑いした。

「面談室で今話せますか?」看護師は笑っている若松に続けて言った。

「ああ、はい—竹林、ケーキの感想後で聞かせてくれ」若松は去り際にそう言った。

「覚えてろよ」竹林は生クリームだらけの口の周りを、自分でぺろぺろ舐め回しながら言った。

確かにおいしそうに食べている、と私は思った。』

 

 

続きは次回更新にて!