「完璧主義」16

 

『若松と別れた後、私は自分の病室へ戻った。

何故か創作意欲がわいたので、私は小説を書くことにした。

今日変な夢を見たせいだろう。夢を小説にして書きたいくらいだ。

しかし、私が書きたいのは夢のような幻想的な世界ではなく、狂気のようなフィクションであり、それを現実と錯覚するかのような妄想である。

「完璧主義」とは病気であり狂気なのだ。

私はいつしか正気と狂気の狭間を行ったり来たりしていた。

それでも世界は変わらない。

人は狂うと現実が見えなくなる。現実がどうでもよくなる。

しかし、大事なのは自分だということ。それを忘れてはいけない。

私は気が付くとペンを走らせていた。

【完璧主義】

【「私」は精神科医ではないので精神のすべてを知っているわけではないが、それでも敢てすべての精神科医アイロニーを送りたい。所詮「あなた」もただの人間なのだ。他人に生き方を教えて治療することなど不可能なのだ。

この物語は「私」が「あなた」に送るサーカスティックであり、「私」も「あなた」であるという自己啓発を示した物である。】

 

私はタバコを吸いに行った。吸っている最中も小説のことを考えていた。

病室へ戻ると若松が面会から戻ってきていた。

私は徐々に妄想の世界から現実の世界へとフェードインしていた。

「なんだ、これ?」

若松が私の書いた小説を勝手に読んでいた。

「あんた、難しいこと書いてるな。これ小説かなんかか?」若松は言った。

「おい、勝手に読むな」

「いいだろ、この前のお返しだ」

この前? 私は何のことだと思ったが、すぐに合点がいった。

例の彼女が載っている新聞のことだ、と。

それにしても、お返しにしてはひどい仕打ちではないかと思った。

「今どきこんなこ難しい小説流行んないぜ」と若松は言った。

「お前には関係ないだろ。—それより面会はどうだったんだ?」私は言った。

「ああ、相変わらずぐちぐち言われたよ。こっちは病人なんだからもっと労ってほしいぜ」

「ああ、そっか」私は適当に相槌を打った。

「『早く私と勝負したいのはわかるけど、病院のなかでくらい麻雀のことばっかり考えないでゆっくり休みなよ』ってさ」

私は思わず笑ってしまった。

若松の気持ちもわからないでもない。

ここにいると、もっと病気になってしまうのではないかというくらい暇なのだ。

だから、みんな暇をつぶすために麻雀をしたり、将棋をしたりするのだ。

「まあ、彼女もお前のことが心配なんだろ。良かったな」

「ふん」

また若松は粋がった。

「トイレ漏れそうだ」と若松はついでのように言った。そしてまた日本語がおかしい。

今日はもう小説を書けそうになかった。

また明日書くのを楽しみにしてよう。』

 

 

続きは次回更新にて!