母のうつ病と向き合う

 

 

こんにちは。ゆきぴです。

 

母が十日ほど前に退院しました。とても長かったです。

母も苦痛だったと思います。

 

しかし、

やっと退院できたかと思えば、母は自殺願望を抱き始めました。

一昨日、急遽病院に診察に行きました。

医師からは、「今度の受診までに自殺願望が消えていなければ、また入院を検討する」と言われました。

 

入院前より今の方が大変です。

こうなることは自分の中ではなんとなく予想できていました。

ですが、何も対策できませんでした。

自分の無力に呆れます。

ですが、自分を責めても、誰を責めても解決できないし、前に進みません。

今できる精一杯のことはします。

一番つらいのは僕ではなく、母なのですから・・・

 

幸いにも、家には母と僕だけではなく、弟もいます。

弟と協力して家事だったり母を見守ったり、分担しながらやっていて今のところはまだ大丈夫です。

 

地域の方や病院の先生はもちろん、ケースワーカーさん等、色々な方がサポートしてくれています。

とても感謝しています。

遠方にいる次男も遠くから助けてくれます。

僕一人じゃ解決できない問題も、みんなで助け合っています。

 

一人じゃありません。

 

話は変わりますが、

次男は僕より先に結婚するかもしれませんw

 

おめでたいことです。

「めでたいことなんだよ」「孫の顔見たくない?」と次男が言っても、

母は、

「結婚式に出れない」「誰にも会いたくない」と言います。

こういう、自分の息子のめでたい時の母親の感情というのは、正直男の僕にはわかりませんが、母を元気づけようと色々電話で話してくれた次男も母も、正直複雑な気持ちだったと思います。

 

あとは次男の彼女さんが、理解ある方でいらっしゃたらいいな、と僕は秘かに思っていますw

 

また話は変わりますが、最近僕は

介護福祉士の資格を取るため、合間を見て勉強をしています。

今介護の現場は大変ですが、

だからこそ、「僕も人の役に立ちたい」と思い始めました。

今は母のことでいっぱいですが、

きっと母は元気になれる日が来る! と信じて。

 

 

では、また。

「完璧主義」13

 

『私が入院して三か月たったある日のこと。

元気を取り戻した竹林は、急に麻雀がしたいと言い出した。

竹林が暴力沙汰に巻き込まれてから、しばらく麻雀は中止していた。いつかまた再開したいと竹林の他の三人は心の中で思っていたその矢先、まさか彼の方から声をかけて来るとは思わなかった。

若松は大いに喜んだ。

私は、包帯の取れた竹林の表情から笑顔が伺えたのが、なんだかうれしかった。

「坂本に声をかけようぜ」若松は言った。

 

「おい。すと、すとらう? みり、みりおねあって、どういう意味だ?」

坂本はまたクイズ番組を見ていた。

私は坂本のそばへ寄り、「多分、『わらしべ長者』でしょうね」と言った。適当に言ったが多分当たっていると思った。学生時代、英語力には少し自信があったのだ。

番組の司会者が正解を告げると、回答者それぞれが一喜一憂していた。

私はクイズには正解したが、クイズ番組には向いていないだろう。そんなことを思った。

正解できるか出来ないかの問題ではない。テレビに出演している回答者のように、喜んだり残念がったりして視聴率を取り、番組を盛り上げられるかという問題だった。

私にはそんなことできないし、そんな気力もない。

私はずれているのだろうか。

「お前、英語わかるのか?」

「ええ、まあ、少しは」

すると坂本は、私をうらやましそうに見て、「お前ならクジラの外の世界でも生きていけるだろう」と言った。

そういうことなのだろうか。

「坂本さん。竹林が麻雀したいって言ってます」

「おお! そうか」

坂本も嬉しそうだった。

 

「麻雀パイとマットを貸してください」私は詰所の中の看護師にそう言うと、

看護師は、久しぶりだね、麻雀、と自分のことのように嬉しそうに言った。

パイとマットを受け取ると、すでにテーブルを用意していた三人の元へと向かった。

「勝つぞ!」竹林は意気込んだ。

「俺だって勝つさ」若松は言った。

「あんたたちにゃ、負けらんねぇ」坂本は言った。

じゃらじゃら。パイとパイがぶつかり合う音。久しぶりの高揚感。

私はまた四人で卓を囲めるのがうれしかった。

これこそが健全な麻雀と言えよう。

「そういや、あの賭けはまだ続いてるんだろ?」若松がパイを積みながら言った。

思い出した。

若松と私とで賭けをしたのだ。どちらが先にここから出て、あの女流雀士と勝負できるかを。

「何のことだ?」竹林が聞いた。

「ああ、新沼君と賭けをしたんだ。どっちが先にここから出て、俺の彼女と勝負できるかってな」

「二人とも何を賭けてるんだ?」

「何も賭けてないさ。運が勝つか実力が勝つかの勝負。つまりお互い主張するものを賭けている」私は言った。

「それなんか意味あるのか?」坂本が言った。

「ありますとも。要はお互い男としてのプライドを賭けての勝負ですな」若松が分かったように言った。

実際には賭け事としてまかり通らないことだったのだが、若松がそう言うと、なんだかまかり通ってるような気がするから不思議だ。

多分、そういうことなのだろう。人は、特に男は例え筋が通らない駆け引きでも、何かを賭けて何かを得たいのだろう。こういう所にいるとなおさらそういうものを味わいたいのだろう。

「サイを振るぞー」と坂本が言って、麻雀がスタートした。

 

東場が終わり、南場に入ろうとしたところ、竹林が言った。

「この中の誰か一人が退院したら、もう麻雀出来ないんだなぁ」と。

「なに悲しがってんだよ。ここから出られればいいじゃねぇか」坂本が言った。

「そうだぜ。少なくとも俺はこんなところで一生暮らすのは嫌だぜ」若松もそう言った。

竹林は何か考え。「そうじゃないんだ。麻雀や娯楽だけがすべてじゃないだろ? みんなそれを判ってるんだよ。それ以外のこともちゃんとやらなきゃいけない。人間としての生活の営みってそういうことだろ?」

「『それ以外のこと』って例えばなんだよ」若松が言った。

「例えば、仕事だよ。それに一人暮らしをしているなら自分の家のこととか、家庭を持ってるなら家族のこととか、色々あるだろ」

坂本が笑った。「お前らまだ若いんだから、あれこれ悩む前にまずは行動しろ」

「そうですけど・・・」竹林は口ごもった。

竹林の言いたいことは私にはわかる。わかりすぎるくらいだ。

今の時代、どの家も経済的に苦しい。仕事もまともにできない。結婚も慎重にならざるを得ない。

そんな中、竹林の様にちゃんと「生きる上で必要なこと」を考えられるのは偉いと思った。

「そんなにうじうじ考えてたって、この資本主義の国の中じゃあやってけないぜ。

─リーチ!」若松はそう言ってリーチ宣言した。』

 

 

 

小説も更新が大変遅れてしまい、申し訳ありません。

「完璧主義」20くらいで完結する予定でいますので、それまでお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

 

宗教の齎すもの

 

更新が3か月も遅れてしまい、すいません!

 

この3か月間、母のことで少し疲れていました。

実は母親は、今年の一月から入院しています。

精神科です。

コロナのせいで入院している訳ではないのです。

そのころは、まだコロナが日本にそれほど脅威をもたらしてはいなかったのですが、

こんな時期になるまで入院するとは思わなかったので、今とても不安です。

もし、母がコロナウイルスに感染してしまったらとてもじゃないですが、今の母にはコロナにあまりにも耐性がなさすぎなので、死んでしまいます。

それほど、母は精神も体も衰弱しています。

 

なぜこんなことになってしまったのか・・・

 

僕が悪いと言えば悪いのかもしれません。

僕がもっと母を気遣っていれば、こんなことにはなっていなかったのかもしれません。

僕も病気だからと言って、何も出来ない訳ではないですが、

僕にも限界があります。

僕は、僕は・・・

 

逃げたいです。何もかもから逃げたいです!

 

でも、それでは今までこの世界を作り上げてきた偉人たちに申し訳ないです。

戦争ばかりしていた時代から、絶望と言える世界から、少しでも良くするために闘ってきた偉人に申し訳が立ちません。

 

僕は「闘争宣言」します!

 

何と闘うか。

 

「目に見えないもの」です!

 

コロナではありません(戦っても勝ち目はなさそうですねw)。

 

母をここまで陥れたもの。

それは宗教です。

 

実はウチは某宗教団体(実名は避けます)に入信しています。

 

僕が物心つく頃にはすでに僕自身親によって入信させられていました。

僕がこの宗教団体を嫌いになり始めたのは、19か20くらいの頃です。

何故嫌いになったかというと、信仰しても、脱却したい事態が解決するわけではないと悟ったからです。

勿論、信仰は自由です。法律でもちゃんと保障されています。

だからこそ、僕は「自由な生き方がしたい」と思い始めました。

信仰している人たちや、その信仰心を否定しているわけではありません。

個人の自由を尊重するべきだと、僕は訴えたいのです。

信仰する自由や、しない自由のことです。

なぜ、生まれた時から信仰を押し付けられなければいけないのでしょうか?

間違っていると僕は思います。

 

母は、いわゆるガチの信者です。母だけでなく、亡くなった父もでした。

 

父が亡くなった時、母は底知れぬ不安を抱えていたと思います。

なので、母はいっそう信心を深めようとしました。

その時はまだ良かったのです。

「ああ、そっか。この信心が母の救いになってるんだなぁ」と心の中では思っていました。

しかし父が死んでから、父や母と親しい同じ信者が、僕に関わってくるようになりました。

最初は会合に出ていましたが、そのうち、僕が書いた訳でもないわけのわからないお涙頂戴の原稿を、信者が集まるコミュニティで読まされ、勝手に称賛されていました。

とても嫌だったし、苦痛でしかありませんでした。

僕もそのころ、仕事もしながら宗教の活動もちゃんとしていました。

しかし母もいつしか別人になったように、僕に家庭でストレスのはけ口を当ててきました。

頭がおかしくなりそうでした。

僕が病気になったのは、母のせいだとは言いません。

宗教が人をおかしくさせるのです。

 

どれだけ信仰しても嫌なことはあるし、確かに母は元気にはなりましたが、僕の方がまいってしまいました。

どうして信心しているのに、こんなにつらいことがあるのか。

母は「それは、信心している人にしか訪れない苦難」だと解釈します。

では信心していない人たちはどうでしょうか?

信心していない人たちにも、同じような苦しみ(親が亡くなってしまう・家の経済が苦しい、など)が訪れることだってあるはずです。

そういう時、そういう人たちは、苦難に立ち向かえて打ち勝てることだってあります。

打ち勝てないこともあるかもしれませんが、それはこの宗教を信仰していないせいだ、と一概に、というか、まったくもって言える訳ではないはずです。

 

宗教は薬と一緒です。副作用があります。

薬を飲まないに越したことはないのです。

飲まないと生きていけないという方(持病があったり、ガンを患っていたり)は仕方ありませんが、薬を飲むか飲まないかの自由はあっていいはずです。

医者だって、「この特効薬を飲めば治るかもしれませんが、副作用があるかもしれないので、飲むか飲まないかは自由です」と言って、無理には飲ませようとしないはずです。

結局本人の自由のはずです。

 

 

長くなってしまいましたが、何が言いたいかというと、

宗教は本来人を幸せにするためのものなのに、不幸になってしまうということは、

決してあってはならないことだと僕は思います。

 

僕の他にも、同じように宗教の問題で悩んでいる方はいるのではないでしょうか?

 

一人で悩まず、誰かに打ち明けることが大切です。

こういう問題は決して一人の力で解決できるものではありません。

一人で悩んで力尽きてしまうより、いっそ他の人たちを巻き込んでしまいましょう。

「いい迷惑だ」と、ほかの人たちに思われてもいいのです。

悩んでいるのは事実なのですから、まずは悩んでいることをアピールしましょう。

 

僕もこの記事を書くことを迷いましたが、

まずは打ち明けることで、ものごとがうまく運ぶのではないかと思います。

 

 

僕と同じように悩んでいる方がいらっしゃいましたら、ぜひコメントをください。

 

それでは、また。

 

 

 

 

 

「完璧主義」12

ゆきぴです。

最近更新が途切れ途切れになってすいません。

 

 

『若松と話してから、私はここから出るにはどうすれば良いか考えていた。

ベッドの上で考えていても良いことが思いつくわけでもない。しかし、考えることによって自分の精神的衛生面を配慮した。

なぜ私は病気になったのだろう。具体的な原因は何なのか、医者は教えてくれない。

統合失調症。そんな診断を下されても、余命を宣告されたわけではない。

私は生きている。

だが実感がない。みんなそうだろう。

何をもって人は病気だと言えるのだろうか?

何をもって人は正常だと言えるのだろうか?

運が悪かっただけなのだろうか。

運? そうか、運か。だから私は無意識のうちに若松に賭けと称して誤謬だらけのことを言ったのだろう。何でも賭けと称すれば誤謬がまかり通ることを私は知っている。

私は実際ここから出たいのだ。なのに実力がどうのと私は意地を張り、プライドだけでここから出ようとしている。

運だってこの病気だって実際に目に見えるわけではない。

だったら割り切って自分は病気ではないと言ってしまえばいい。

ここから出られるのが運だろうが実力だろうが、麻雀に勝てるのが運だろうが実力だろうが、所詮そんなものは結果しか目に見えず、ほかのことは誰も気にしない。

つまり、病気になった原因もどうでもよく、ここから出る努力もどうでもよいのだ。

私はなんだか虚しくなった。

目に見える結果しか気にしないなんて、悲しくはないだろうか。

「どうしたんですか?」ふと私の担当の看護師が顔をのぞきに来た。

看護師に私の心境を一からしゃべるのは、途方もない苦労のように感じた。

「何でもないです」私は言った。

「そうですか。いつでも相談に乗りますからね」男の看護師はそう言って去って行った。

私は坂本と話したくなった。

きっと今頃はテレビを見ているだろうか。

 

テレビの画面で、大きな蛇が何か小さな鳥を丸のみしているのが見えた。

「気持ち悪いなぁ」坂本は言った。

気持ち悪いのが好きなのだろうか。だから見ているのだろう。人は得てして気持ちの悪いものに見入ってしまうことがある。

「坂本さん。話があります」

「おお。なんだ?」

「ここは地理的には駅北口から見て真正面の方角に位置するところだと思いますが、社会的にはどこですか?」私は若松の言葉を思い出して言った。

「・・・そうだな。社会的に言うとここはペーパーカンパニーだろう。ついでに物語的に言うとクジラの胃の中だろう」と言った。

「どういう意味ですか?」

「そのまんまだぜ。ここは実体のない会社」

「それはなんとなくわかるんですが、クジラの胃の中っていうのは?」

「物語的に言えばピノキオだ。俺は思うんだがよ。あの物語は全部クジラの胃の中の出来事なんじゃねぇか。だってよ、クジラってでっけぇだろ。ピノキオはちっちぇだろ。物事は目に見えないものでいつの間にか覆われてるってこともあるんだぜ」

「その発想はなかったです」

「なあ、あんた。ここから出たいんだったら、クジラのことはどうでもいいんだよ。クジラの外の世界のことだけを考えるんだよ。そうすれば自ずと答えは見つかる」

クジラの外か。そう言われると、私は今までそのことにあまり関心がなかった。

「ありがとうございます」私は坂本に礼を言った。

 

「もしもし。新沼です」弟が抑揚のない声で言った。多分もう私だと気づいているのだろう。私は昼時を狙って弟にまた電話をかけた。

「兄だ。何度も悪い」

「別にいいけど。そういえばさっき言い忘れてたけど、兄貴、高校の同窓会出るのか? 返事がないから兄貴の同級生から俺の方に連絡来たけど・・・」

「ああ、悪いけど、今は行けないって返事しておいてくれないか」

「わかった。—で、用件は何?」

「私はここから出たら、自分の本当にやりたいことをやろうと思ってな」

「兄貴の本当にやりたいことってなんだよ」

「物書きだ。忘れたのか? 昔からお前に軽い読み物を書いてやっただろ」

弟の笑い声が聞こえた。

「頑張れ。俺も今の兄貴の書いた小説なら読んでみたい気がする」

「そうか。ありがとな。—じゃあな」電話を切った。

私は自分の病室へ戻り、ベッドの上で妄想を開始した。物書きにとって想像力や妄想する力は大事だ。不健康にならない程度にバランスよく妄想する力も大事だ。

紙と鉛筆さえあれば、執筆活動はできる。

私は真っ白な紙に、「完璧主義」とタイトルを書いた。』

 

 

続きは次回更新にて!

「完璧主義」11

 

こんにちは。 ゆきぴです!

更新が大変遅れてしまいすいません!

 

 

 

『きっとプロになりたいというのは麻雀のプロのことだろう。

それにしてもこの二人は一体どういう関係なのだろうか。

「あんた、ここがどこだか分ってる?」と女は言った。

「地理的には駅北口から見て大体、真正面の方角に位置するとこで、社会的に言えば、掃きだめとでも言ったところか」若松が言った。若松はそこで私に気づき、「おや、にいぬまけんじさん。どこへ行くんですか?」とわざとらしく言った。

新沼謙治?」女は演歌歌手の名を復唱した。

私は面倒なことになると思い、そそくさと去って行こうとした。

「おい、待てよ。—紹介する、俺の彼女だ」と言って若松は隣の女を紹介した。

女は迷惑そうにして、初めましてと、軽く挨拶をしすぐ若松のほうに向きなおった。

女も迷惑なら私も迷惑なのだ。だがプロになりたい云々の話は少し興味があったので、後で若松から事情を聞き出そう。私は外に向かった。

「あんたが私の彼氏面するのはいいけど、プロになりたいんなら、あんたが私のところに嫁がなきゃいけないわよ」最後に聞こえた女の言葉がそれだった。

 

私はタバコをワンカートン買った。これだけあれば大分持つだろう。

気晴らしがしたいとは思ったが、結局何をしたいのか自分でもわからず、ものの十分ほどで買い物は終わり、病院へ戻った。

外来の待合室にまだ例の二人がいた。

「わかった。俺がシャバに出たら勝負しろ!」若松が大声で言った。

「わかったわよ。—じゃ、私そろそろ行くわ」

絶対だからな、と若松が言ったタイミングで若松と私は同時に詰所の中に入った。

女が手を振り、独特の金属音のドアが閉まる音がする。それはシャバとこの″掃きだめ"を別つ証の音でもある。

二人は看護師からボディチェックを受け、病棟の中に入った。

「おい、プロ雀士の彼女がいるなんて聞いてないぞ」私は言った。

「お前、新聞読んだな!?」

「読んでくれと言わんばかりに放っておいてあったからな」

若松はため息をつき、その辺の椅子に座り、「あいつとは幼馴染なんだよ。近所に雀荘があって、そこが彼女の家だ」と言った。

「そうか。で、お前がプロになりたいっていう話は何だ?」

「ああ、その話か。—麻雀ってさ、どうしても悪い賭け事のイメージがあるだろ。それを払拭するために、俺は運の要素を排除した完全な実力を重視した麻雀で勝負したいんだ。だけど、俺とあいつの考え方は違う。競技団体に入ろうにも、方針が違うから俺は結局あいつと敵対することになる。そのことでもめてたんだよ」

「なるほど」私は相槌を打った。「シャバに出たらあの女流雀士と勝負するのか?」わざと女流雀士という言葉を使った。

「そのつもりだ」

私は良いことを思いつき、「賭けてもいいか? 運と実力どっちが勝つか」と若松に提案した。

「どういうことだ?」

「私が先にここから出られたら、私がお前の代わりにあの女流雀士と勝負する。お前が先にここから出られたらお前が彼女と勝負する。私は自分が先にここから出られる方にかける」

「意味が分かんないぞ。お前」

「私とお前、ここに入ったのはほぼ同時期だっただろ。だからどっちが先にここから出られるかは実力という訳だ。私は自分が先に出られる方に賭けた。私が彼女と勝負してなおかつ勝てたとしたら運が味方したとしかいい言いようがないだろ? もちろんお前が先に出て彼女と勝負すればいいだけの話だ。それなら実力の勝ちだ」

若松は含み笑いをし、「いいだろう。その賭けに乗ったぜ」と言った。』

 

 

続きは次回更新にて!

「完璧主義」10

 

ゆきぴです~

一日更新が遅れてしまいすいません。

 

 

『そうだった、今日はタバコを買いに行くのだった、と残り少ない煙草の箱の中身を見て私は思い出したのだった。

点灯の瞬間私はいつもと違う夢を見ていたことに気づいた。だが内容は覚えていない。統合失調症の人はよく変な夢を見ると聞くが、「変な夢」を見ても平然としていられるのは、見すぎていてそれに慣れているからだ。それが普通だと思ってるからだ。

主治医に夢のことを相談しても、「まあ、所詮は夢ですから」と片付けられてしまうだろう。

私の悪夢を見る原因を突き止めることをしないのは、そもそも夢のメカニズムが解明されていないからだろうか。

人は一生のうち三分の一も睡眠に時間を費やすというのに、平気で夢を忘れたり、寝ていたことさえなかったかのようにふるまう。

私にはとてもできない芸当だ。忘れろと言われても無理な話なのだ。

ベッドから起きて着替えた。そしてふと、私の弟のことを考えた。例の夢に出てくる三つ下の弟だ。父が死んで母子家庭になってから、私はすぐ社会人になった。弟は私より頭がよかったので進学したいといって実家を出た。

あれから十年は経つ。その間弟は正月やお盆に二、三回実家に顔を出しに来ていたが、今はもう疎遠に近い。

私が入院していることさえ弟は知らないのではないだろうか。

私は孤独を感じた。弟に電話してみようか。

いや、向こうだって忙しいだろうし迷惑だろう。

だが頼れるのは弟だけだ。迷惑だろうと思いながらも、私は気づいたら公衆電話の前にいた。

電話をかけた。

「もしもし。新沼です」弟の声だ。

まさか繋がると思っていなかったので、なぜか電話をかけた私のほうが戸惑った。

「あ、もしもし」

「あ? 兄貴?」弟の口調が変わった。私の声ですぐわかったらしい。

「悪い。また入院した」

「何やらかしたんだよ」なにもやらかしてなどいない。

「仕事がまともにできなくなった。症状が悪化した」

「症状が悪化したのが先か? 仕事ができなくなったのが先か?」弟のこういうところが嫌いだ。

「どっちもだ」

「母さんには迷惑かけるなよ」と言って切れた。

電話しなければよかったと後悔した。

急に後悔、怒り、孤独、不安と言ったものが押し寄せてきた。

私だって強くはないのだ。

 

「今日は外出でしたね。どこに行くんですか?」

私が大広間でぼうっとしている時、看護師にそう尋ねられた。私の割と気に入っている男の看護師だ。もう検温の時間だった。

私はいつも、いつ検温が来てもいいように若松と距離を取っている。あまり若松には聞かれたくないことだってあるからだ。

「タバコを買いに、近くのコンビニまで」私は答えた。

「用事はそれだけですか? ほかに行くところはないですか?」

そういわれると確かにタバコを買いに行くだけでは物足りない気もしてきた。気晴らしにどこか違うところへ行ってみようか。

「まあ、ふらふらしてみます」と私が言うと看護師は笑い、わかりましたと言って去って行った。

気晴らし? そうか私は気晴らしがしたいのか。ふと気晴らしをするなら何か特別なことをしたい気分になってしまった。

「二十九にもなってふらふらするなよ」と坂本が隣で笑って言った。

「いいじゃないですか。気分転換です」

「あんまりはめ外すなよ」

私は、わかってますと言って自分の病室に戻った。

竹林は相変わらず静養中だ。

病室に入ると若松が見えない。大広間でも見かけなかった。

どのみち若松がいたら、どこ行くんだとしつこく聞かれるだろうから、いなくてもいいのだ。

若松のベッドにポンと置いてある先月の新聞が見えた。私は気になり、それを手に取ってぱらぱらとめくったりした。ある記事に赤ペンで丸で囲ってあった。

麻雀の世界大会で準優勝した人の記事らしい。その人は日本人の若い女で写真も載せてあった。インタビューでは、″小さいころから私は運に恵まれていて、麻雀もよく考えずに打っていました。でも最近では、それだけでは勝った気になれないので、独自で「運」という要素と、もともと麻雀の持つ複雑なアルゴリズムを理論的に考えました。その結果、今回良い結果が生まれたんだと思います。“と語っている。

なるほど、と私は思った。なにがなるほどかというとアルゴリズム云々の話ではなく、若松はきっとこの女の人が気になっているのだと直感で感じたのだ。

「新沼さん? 外出するんですよね」看護師がいつの間にか来て、私にそう言った。

そうだった。もうこんな時間か。

「今準備します」私はそう言って急いで外出の準備をした。

 

詰所から外に出るとそこはもうシャバだ。私はシャバの空気を思う存分吸った。タバコよりうまい。ずっとシャバにいたい。そんな思いが湧いてきたが、そう思うことは何か罪の意識を感じてしまう。

「俺もプロになりたいんだよ」若松の声だ。何だ面会に行ってたのか、と私は安心した。その横を見ると女の人がいた。

そこで驚愕した。さっきの記事の女性ではないか。』

 

 

続きは次回更新にて。

「完璧主義」9

 

 

『竹林が雀荘へ行ったという証拠はないが、坂本なりに確証があるのかもしれない。

実は私も何となくそんな予感はしていたのだ。

「竹林はきっとお金に困ってたんだと思います」私は言った。彼が雀荘へ行った動機は何なのか、坂本の口から聞きたかった。だから適当に言ってみた。

「どうだろうなぁ」坂本は唸った。そして顎に手を当て、一考した。「男はなぁ、なにかくだらないことがきっかけで、くだらないことをしたくなるもんさ。俺は竹林を褒めてやりてぇ。だがなぁ、それと同じくらい竹林の奴を叱りたい気分だ。度胸があるのと命知らずなのは違うってことだ。動機は何であれ竹林は行動した。それは認めてやらないとな」

なるほど、と私は思った。

坂本は続けて、「あいつぁ、今どきの若いやつの中でもいい肝っ玉してると思うぜ。今どきの奴らは、ああでもぇこうでもねぇって口ばっか達者で動きやしねぇ。男は行動あるのみだ」と断言した。

男だからこうあるべきだ女はこうだ、というのは今の時代古臭い考えなのかもしれないが、私には逆に新鮮な教訓かもしれない。温故知新というやつだろうか。

坂本の言葉を聞き、私はなんだか自分がちっぽけな気分になった。所詮私も口先だけで生きている坂本の言う今どきの人間なのかもしれない。

「竹林が話せるようになったら言ってやれ。『お前、勇気あるな』って」坂本はしゃがれた低い声で言った。

今の言葉をそのまま竹林に言ってもうまく伝わるだろうか。竹林にとって私は所詮他人だし、なんの繋がりもない。

だが、ここではそもそもみんな他人だ。さらに言えば社会もそうやって他人の作ったコミュニティ同士で出来ている。

この一瞬一瞬で、誰かがギャンブルで大勝ちしたとか宝くじに当たったとかいう人もいれば、会社をクビになりさらには借金を抱え、どうしようもなく自殺を図ろうとする人だっている。

運が良かったとか、誰かが悪いだの環境のせいだとか、結局は不可抗力なのだ。

みんなそうやって生きているのだ。自分だけが不幸と思ってはいけない。このちっぽけな命にも可能性というものだってあるはずだ。

私は外の景色に目を向けた。窓からビジネスホテルの明かりや車のライトが見えた。その夜景は星空のようにも見えるが所詮は人工物。そう、社会とはそういうもの。星空のようにロマンチックで綺麗なものではないが、みんなが作った、作り上げたもの。私たちはその中で生きている。

「―の舞台のモデルになったと言われている台湾の観光名所はどこでしょう?」とテレビから聞こえ、坂本は大声で「キュウフンだ!」と言った。

私もその答えを知っていたが、坂本がそれを知っていたのは意外だった。

私はなんだか急にキュウフンへ行ってみたくなった。きっと夜は素晴らしい景色だろう。』

 

 

続きは次回更新にて!